Medula

■好きな曲もあるし、才能ももちろん凄いと思う。ただどうしても個人的にのめり込むことができないアーティスト。僕にとってビョークがそれだ。

 新進気鋭のクリエイターを配してプログレ的な手法でしかない音楽表現をポップスの次元まで高める才能は、たしかにロック的見地から眺めても凄いと思う。ただ、 『Dancer In The Dark』のサントラ、『Vespertine』以降のビョークの作品は、もはや高尚なものとなりすぎていて、音に隙が無さすぎる。無駄なモノはいっさい排除した、というような音に聞こえて、あまりに“芸術作品”チックに聞こえてしまうのだ。つまり、聴いていて疲れる。いまだに『Debut』や『Post』をフェイヴァリットに挙げる人が多いのもそのへんが理由なんじゃないだろうか。

 今作も「楽器や電子音を一切つかわず、人の声だけで楽曲を作る」というコンセプトが、すでにもう意味がわからない。その試みもポップ・ミュージックの先人たちが先にやっている例はいくつもあるそうだし、ヒューマン・ビート・ボクサーを多数起用したというのも「へえ」という感じである。というか、単に前衛的なもの、新しいものをやろうとするだけで、ネタがなくなってきたんじゃないのとは言い過ぎだろうか。これだけの歌とメロディがあるのだったら、いっそピアノ一本でやってくれたほうがよっぽど衝撃的だったのになあ。普通の楽器で、普通のアレンジでやることが音楽的な衰退なんかでは決して無いのに。
 
 その昔ピンク・フロイドはステージでチューニングしただけで新曲と思われたり、次回作は野菜を楽器として使うとか噂されたらしいが、ビョークに関してもそんな盲目的なファンは多いと思う。凄そうだけど正直言ってなにがなんだからサッパリワカランという人も大勢いるはずだ。これ聴いて、ビョークの伝えようとしていること、目指そうとしていることがわかる人って、ビョークと同じくらい才能がある人なんじゃないの。

Medulla Dual Disc

Medulla Dual Disc