もやしもん 4―TALES OF AGRICULTURE (4)

遅ればせながら石川雅之もやしもん』4巻、読了。
最初は菌に関するウンチクがメインだったのが、やがて、主人公・沢木の、大学という非日常の空間の体験とそこに染まりながら変わっていく(「成長」とは違う)様子を描くようになっていきました。菌が肉眼で見える、という極めて物語的な特殊能力を持ちながら、実はそれは今のところまったく役に立っていないという、沢木の社会のミニマムさは、そのまま大学構内という特別な社会の閉鎖的感覚に繋がっているようでした。
今巻の話ではその特殊能力、ある種のアイデンティティーとして描かれてきた菌の見えるという能力の喪失から、基本的に日和見の姿勢でこれまで翻弄されるだけだった沢木の、あまり表に出さないけど確実にある悩みが淡々と描かれています。自分にはまったく興味のないことでかけられる期待のプレッシャーと、かといってそれ以外に何も考えていないという自省という2つの間でとまどう感覚。さらには、それについて主人公の親友の結城蛍が言う「嫌われないように生きるのって大変だけど、嫌われないように生きているってバレたら嫌われちゃうよ?」「人生とは選択であり、選択とは他の可能性を捨てること」などの台詞は、大学という、高校までのモラトリアムとも地元とも世間とも違う、そしてその先の将来にも決して無い異世界であるコミュニティーで生まれる、思春期の締めくくりの心情を、瑞々しい臨場感をもって描いています。
出てくる菌キャラの可愛さや菌のウンチク、高い画力などが語られることが多い本作ですが、芯にはリアリティのある心理描写が息づいていて、それが飽きのこないストーリー、ひいてはイブニング誌上No.1ヒットにつなげているんだと思いました。

もやしもん(4) (イブニングKC (171))

もやしもん(4) (イブニングKC (171))