幻影博覧会 2 (2)

今年の桜も早かった。見事に咲き誇った桜を鑑賞しつつも、その裏で必ず散り際の寂しさをアタマに入れながら、その切なさも含めて綺麗だと思うのが桜というもんで、だからこそ満開の状態を見てもどこか物悲しい、とはよく言われます。短命であることの美しさ、またそれがちょうどいいタイミングで咲かないもどかしさに、なんだか歳をとるにつれ魅了されつつありますね。先日酒の席で「ちょっと暖かくなったからって急いで咲こうとしちゃう桜はバカだなぁ」「でも向日葵はもっとバカっぽいよね」などと他愛ない話になりましたが、バカはいつでもいとおしいもので、どちらのバカも僕は好きだ。
気がつけばすっかり葉桜。満開のときよりこのぐらいの状態に何かを感じてしまうのはそんな心情なんだろうか? 学生時代に同じことを言っていた友人がいましたが、彼はまさしく力強くチャレンジ精神が漲っているように生きている反面、打たれ弱く繊細なバカであったことを思い出しました。
冬目景、『幻影博覧会』2巻が久しぶりに発行。探偵を主人公としたミステリーものですが、事件を中核としたストーリーはわりとシンプルな内容で、むしろ会話の端々に顔を見せる心理描写やヒロインの謎の言動といった点に冬目景独特の、そして得意のおセンチでじれったい空気感の方が味わい深い作品です。このあたりは最初に怪奇モノと思わせておいてすぐに悲哀に満ちた話へと連れて行かれる『羊のうた』と同じものを感じました。ってこれは邪推ですね。もちろん読み方なんてその人の自由です。
舞台は大正時代半ばということで、風景や衣装など、その造形が文化の変わり目であることを示すように和風と洋風がバランスよく入り混ざっており、作中の台詞から引用すれば「洋」な雰囲気は“モダン”であり「和」な雰囲気はその対比でレトロに見える、古くはないけど今とは少し違う時代感覚がなんともいえないです。『蟲師』もそうだけど、こういう近代の古い日本を描写した作品、これからも増えてきそうだな。

幻影博覧会 2 (バーズコミックス)

幻影博覧会 2 (バーズコミックス)