絶望に効くクスリ 10―ONE ON ONE (10)

♪例えば繋いだ手が解けても 離ればなれにならない様に
最後まで何があっても 忘れないわ
あなたと握手


aikoの「あなたと握手」という曲が好きです。握手という言葉にめいっぱいロマンチックを込められた歌詞は、無理のあるプラトニックさもないし、どこか艶っぽい感じもします。手には心が宿っているとはよく言うけど、品も性格も価値観も、つまりその人の全部が現れているように思います。
だから手を握るっていうのは特別な意味を持つんでしょうね。家族、友達、恋人、恩師、様々な人と様々な場面で。「貴方が生まれて今まで触れてきた全てのものに、私も並ばせてください」っていうメッセージ。そう考えるとハグより親密な意思疎通みたいに思えるから不思議です。

「バカの壁」でブレイクした解剖学者の権威、養老孟司先生のインタビューが『絶望に効く薬』10巻に載っていて、そこでこの人が解剖をやることを辞めたときのエピソードが語られていました。

「解剖する時って実は手の解剖が嫌なんですよ。
 僕らの時は素手で解剖をやってますから、手の解剖の時は相手の手を握るんだ。
 その瞬間非常に怖いっていうか、気持ち悪さがあったんだけど」
P17

僕はスーパーのバイトでマネキンの手とか持つのも嫌だったんで、想像しただけでヘビーなんですけど、相手を生きてる人から死んでいる人に置き換えただけでこんなにも恐ろしく思えるんだから、手っていうものにどれだけ物理的なこと以上の意味が込められているのかっていうことですよね。
養老先生の話はその後、解剖相手(=死体ね)の手を握ってもなんとも思わなくなった自分がいて、それが「相手」と「自分」がひとつになったということに気付く。と同時に、それは自分自身が少年時代から何十年も探し続けてきたものの答えであり、長い時間をかけて幾人もの死んだ人との対話は、自分自身の解剖学であった。と、まとめられています。
この壮絶な話の細かい内容は是非マンガを読んで欲しいんですけど、この人の研究の考え方、死というものの考え方は、他の著書を読んでもそうなんですがやっぱり独創的で凄く面白いです。
昼間モダンな老夫婦をみました。手をつないでました。目白界隈にはよくこういう方々を見かけます。愛しい相手の手を握って何もかも伝わってくるから、だから特別な感情はなにも湧かない。そんな関係の二人なんでしょうか。

絶望に効くクスリ vol.10―One on one (ヤングサンデーコミックススペシャル)

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